air pen Limited Edition 共同企画第二弾、本革仕様の高級ステーショナリー airpenの活用



アナログ世界とデジタル世界のゲートウェイ

 研究者の作成する文書には、一見しただけで他のものと区別できる外見上の特徴があります。それは「引用が多いこと」。

  A4用紙で5〜6ページの文書の最後には10〜20点ほどの参考文献が示され、本文中の個所には番号つきで「どの文献について言及したか」がわかるようになっています。慣れていない人にとっては独特に見えるかもしれませんが、文書中の引用は「先人たちの積み上げてきた多くの成果を把握し、それらの内容をふまえた上で自分の主張を述べている」ことを表す効果があります。引用の有無とその適切さで自分の意見に説得力を持たせることができるようになります。そして引用の持つ力は書き方のスタイルが異なる、研究者以外の人にとっても大いに有効なものです。

 ビジネス上のプレゼンテーション資料でも「他のどの人がどこでどんなデータや見解を示したか」を取り入れながら書くことで、見ている人たちに客観性や冷静さといった好印象を持ってもらうことができます。このように他の文献からの引用にはメリットが多いのですが「自分が過去に読んで掴んだ内容をどうやって蓄えておくか」という問題も出てきます。

 ただ読むだけでなく、誰がどの文献で何を言ったかを覚えておいてそれを瞬時に引き出すというのは、自分の頭ひとつで簡単にできることではありません。


筆者自身による研究報告文書の例
(赤線の個所が引用)
他社製品とは一線を画すファッション性

京大型カードによる文献カードの例

 そのため研究者や著述家といった、書くことが多い立場の人たちはそれぞれの方法で「文献カード」を作成して日々のインプットの内容を記録していくようになります。書いて満足するのではなく、目的はもちろん「後でいつでも取り出せるようにすること」。ですから紙の文献カードは定型化でき、入手しやすく、手で探しやすい適度な大きさを持つものが好まれます。

 代表的なものは梅棹忠夫氏が「知的生産の技術」で紹介し話題を集めた「京大型カード」で、これはB6サイズのやや厚手の紙を使った横罫の記録ツールです。紙1枚に文献1つの情報を書く、という型を決めることで自分自身が文献に向かうときの姿勢も定まり、決して楽しいことばかりとはいかない作業も習慣化し定着させることができます。

 厚手の紙は後から手で扱うときによれたり、破れたりすることもありません。「知的生産の技術」は1969年に発行されたものでこの分野では古典の部類に属しますが、京大型カードは今でも文具店や東急ハンズなどで入手でき、私の周りにも愛用者は何人もいます。

アナログ世界とデジタル世界のゲートウェイ

 最近の書籍では小山龍介氏と原尻淳一氏による「IDEA HACKS!」の中で京大型カードが紹介され、アジア研究者の鶴見良行氏がテーマや特徴、文献、引用文、ページ数などを詳細に記録した、数万枚にもおよぶカードの実例が登場します。このような使われ方を見ていくと、文書作成だけでなく企画立案や口述など、あらゆる知的作業に文献カードが役立つことは間違いないと思えてくるのですが、実際にこれをある程度続けていくと「検索性をもっと上げられないか」という欲求が出てきます。

 紙はどんなに小さなものでも物理的な場所を伴うため、それをどんな順番で保管しておくかが悩みどころになります。対象となる文献のタイトルで並べるか、著者名の順にするか、書いた日付か、はたまた「最後にカードを閲覧した日付」か。それぞれに合理性はあるのですが、どれか1つの方法を使うと他の探し方をあきらめることになります。

 そこで今回は文献カードの作成自体をデジタル・ツールの"airpen"に移行し、記録結果を全てコンピュータのハードディスク上に置くことにしました。文献カードに相当する情報を直接コンピュータのキーボードから打ち込もうとすると小型のノートパソコンといえども持ち運びや電源確保の煩雑さに直面しますが、airpenは通常のルーズリーフ用バインダと重さも大きさもほとんど変わりません。手書き入力の筆跡を検知する専用ユニットは、乾電池込みでも文庫本1冊と同程度の重量しかないのです。これなら出先の喫茶店、移動中の電車内、はたまたトイレの中などどこでも利用できます。


airpenでの文献カード
他社製品とは一線を画すファッション性

文字認識結果をプレインテキストに

 ペンで書いた内容を紙に残しながらデジタル画像としても記録できる機器は他社からもいくつか発売されていますが、その中でもairpenは手書き文字認識ソフトウェアと簡単に連携できることが特徴の一つになっています。

 "InkMagic for airpen"と呼ばれるこのソフトウェアは認識結果の文字をMicrosoft Wordやプレインテキストに出力することができ、特にプレインテキストでの保存は私にとって嬉しいものになっています。紙の文献カードからairpenに移行する前には専用の文献記録ソフトウェアの導入も考えたのですが、「このツールと同じものが5年、10年後にも使えているだろうか?」という不安がどうしてもありました。その点でプレインテキストは純粋に文字の情報だけが入っていて特定のソフトウェアに依存しないのですから、10年でも20年でも保管し続けられます。

 近年広まりつつある"Google Desktop"などのデスクトップ検索ツールとの相性もひじょうに良く、検索した結果にたまたまairpenで作っておいた文献カードのファイルが現れ「なんだ、自分は過去にこれを読んでいて知っていたんじゃないか」と気づくこともしばしばあります。過去の自分は他人であり、自分の頭があてにならないことを思い知らされます。

 極端な話ですが「今日から私はもう、airpenを使うのをやめます」と判断したとしても、これまでに記録した内容はこれから何十年も自分の資産として活用できます。「やめます」という判断は今後当分はしないはずなので、製造者の方には機器やソフトウェアのメンテナンスを末永く続けていってほしいと願っています。

大学研究員、講師をつとめながら企業向けソフトウェアの開発、執筆活動も行う。専門分野はe-Learningを中心とした教育工学で、学習者支援のためなら画像処理やセンサ技術、Webのメタデータ配信までなんでも使う雑食路線を突き進む。
ここ数年はソーシャル・アプリケーションの開発や利用者分析も行っており、共著書に「ソーシャル・ネットワーキング・サービス 縁の手帖(翔泳社)」「mixiでこんなことまでできた!(青春出版社)」がある。
「本好きではないが本屋が好き」という不思議な習性も持ち合わせており、休日などに大型書店に入ったら4〜5時間は出てこない。晩年に住みたいと願う街は当然のように神田神保町。


airpen試用レポート
バックナンバー
>> 第1回 「文献カードを作ろう」
  >> 第2回 「airpenではじめるGTD(作業管理手法)」
   
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