プレミアム辞書 金田一秀穂先生 特別インタビュー

シソーラスはこれからの日本人全員に必携の辞典だ[前編]

日本語シソーラス 第2版 類語検索辞典 for ATOK

金田一先生01

今回の「一太郎2019 プレミアム」「一太郎2019 スーパープレミアム」には、“言葉探し辞典”を『日本語シソーラス 第2版 類語検索辞典 for ATOK』として搭載しました。

この「日本語シソーラス」について、日本の言語学者である金田一秀穂先生にうかがいました。現在は、杏林大学外国語学部教授、政策研究大学院大学客員教授としても活躍されており、テレビでもおなじみのとてもチャーミングな先生から、非常に興味深いお話を聞くことができました。

前 編

後 編

大修館の『日本語シソーラス 第2版』は、2003年の初版から13年ぶりに出版されました。日本の一般的な類語辞典は、五十音順に並んでいて、引いた語の類義語が確認できるタイプのものですが、「日本語シソーラス」は、意味の類似に従って言葉をグルーピングした類語検索辞典です。このようなタイプの本格的な類語辞典は本書のみで、今回の改訂により、のべ33万語句を収録しています。

例えば、「爽やかな」という表現に類似した言葉を探すと「心洗われる」「爽快」「爽(さわ)やぐ」「清逸(せいいつ)」「澄み渡る」などといった表現が見つかります。「ピンとくる言葉が思い浮かばない」「単調な文章をなんとかしたい」といったときに非常に役立つ辞典です。

シソーラスとはどのような辞典でしょうか

シソーラスは、作るのがものすごく難しい辞典なんですよ。だから、それぞれの個性が出るものなんです。例えば「焼き魚」は、「魚」の類語に分類するのか、それとも「食べ物」に入れるのか…。どっちにもあったほうがいいのか、それとも「魚」には「焼き魚」はいらないか、とかね。

あと、使う人が便利であるかどうかも重要です。そして読んでて楽しい、読み物としての辞典という側面がありますね。退屈しているときにボーッと見てるのも楽しいものですよ。

大修館の『日本語シソーラス 第2版』に推薦文を書かれていますが、どんな辞典だと思いますか

大修館の「日本語シソーラス」は個性が強い傾向があって、読み物として読んでも楽しい辞典なんです。例えば「おいしい」の類語として「頤(おとがい)が落ちる」みたいなものまで入ってるんですよね。

普通なら「ほっぺたが落ちる」あたりで済ませるところですが、大修館のシソーラスは、こういった表現まで拾っているんです。編纂者の意向が色濃く出るのがシソーラスです。そういうところがおもしろいですね。

シソーラスを利用するメリットはどういったところでしょうか

とにかく、いろんな表現を見つけられることでしょうね。例えば「ごめんなさい」という意味の文章を書きたいときに、「このたびは申し訳なかったです」とか「もう二度といたしません」とか「深く反省しております」という表現を使ったら、もうあとは何があるか思い浮かばない。

そんなときにシソーラスを使えば類語がだーっと出てくるわけです。たとえば「恥じる」「反省する」という語のグループを検索すると、「穴があったら入りたい」とか「合わせる顔がない」とか「慚愧に堪えない」とか、少しずつニュアンスの違った表現がたくさんあるわけです。「語彙」レベルではなく、「表現」レベルの話ですね。

シソーラスを使えば、表現が豊かになります。同じ言葉ばかりを使わなくて済みます。そういうところで役に立つ辞典ですね。

例えば「ありがとう」でも、いろんな「ありがとう」がありますよね。もっともっと「ありがとう」を伝えたいときに、シソーラスがあれば、たたみ込むように「ありがとう」をいっぱいいっぱい言えちゃう。

筆者のようにライター仕事をしていても、同じような表現を使ってしまいがちで、そうなると文章が単調になってしまうんです

そうです。そういうときに言い換えられる語句を探せるんです。「かわいい」という表現も「素敵だ」「魅力的です」「心を奪われます」とか、いろんな言葉で感動や喜びを表現できる。そういう、豊かなところに引っ張っていってくれるんです。使う側はもちろん、受け取る側にもそれが伝わってきますよね。

伝えたい気持ちがあるのに、それにぴったりくる言葉が思いつかない。そんなときにも「自分が言いたかったことはこれだ!」という表現を見つけることができるんですよ。人の心って「うれしい」や「悲しい」などの単純な表現では表せないことがいっぱいあるわけじゃないですか。そういうのを見つけ出すことができるんですよ。

挨拶とか気持ちを表すとき、日本語はとても豊かです。さまざまな気持ちの表現があるわけです。その中で、本当に自分が伝えたい気持ちを適切な言葉で表現すれば、受け手にも深く突き刺さります。月並みな表現ではちっとも心に響かないんですよ。

受け手に気持ちを真摯に伝える、という意味では謝罪するシチュエーションでもシソーラスは役立ちますね(笑)。

シソーラスは、いい俳句や小説を読むことと似てる?

いい俳句やいい小説を読むとそういうことがあるわけじゃないですか。「あぁそう、これ」とか「自分が表現したいのはこれだ」とかね。そういうのがあるから、芥川龍之介や三島由紀夫や太宰治を読んだりするわけですよ。こういった名作を読むことと同じような喜びが、シソーラスにはありますよね。しかもはるか昔の人物が書いた小説より身近ですよね。そこがシソーラスのいいところなんです。

日本のシソーラスはいかがですか

日本にはシソーラスがとても少ない。もっともっと増えていいと思います。まだまだ不十分です。英語の場合は、もともと発信者が多いからシソーラスが昔からものすごく発達しています。

しかしこれまでの日本では、紋切り型の文章、パターン化され、テンプレート化された文章で済んでたわけですよ。これからはSNSなどの発達によって日本でも表現者・発信者が増えてくるわけですよね。発信者が増えていろんな表現が増えていけば、紋切り型だけじゃ通用しなくなりますよね。これからの日本も、発信者にとってシソーラスは必携です。

一太郎にシソーラスを搭載(電子化)したメリットは?

今デモを見せてもらいましたけど、「一太郎」なら、「日本語シソーラス」で類語を検索することもできるし、辞書を切り替えると国語辞典で意味を調べることもできるんですね。ここが紙と大きく違うところでしょう。

シソーラスの辞典には、大修館の「日本語シソーラス」のように、類語を検索するタイプのものと、国語辞典のようにそれぞれの意味まで掲載されている「類語辞典」とがあります。

日本語シソーラスは意味までは載っていないけれど、とにかく類語を数多く搭載しているし、意味まで載せている辞典はどうしても語彙数は少なくなってしまう。紙には物理的な限界があるんですよ。厚さの上限もありますし、かといって紙を薄くしすぎると裏が透けて見えちゃうとかね。電子化すれば、そういった制限は気にしなくてよくなるし、見せてもらったように類語検索と意味検索をシームレスにできるわけだから、そういう紙の辞書の限界を超えることができるという点で優れてますよね。

それになんと言っても、この重さのものがここに入っちゃってるわけですからね(笑)。そりゃ便利ですよ。

ピンポイントで素早く探し出せるのもデジタル化のメリット

それともう一つ。例えば「ごめんなさい」なら「ごめんなさい」の項目にピンポイントでポンッといけるわけですよ、デジタルなら。「ごめんなさい」の前後の不要な言葉は出てこずにすぐに探し当てられる、そういうメリットがありますね。

ただ、紙は探す過程で「周りの言葉」も見ることになります。それはそれでいい味があります。読み物としてのおもしろさですね。ついつい読みふけってしまう(笑)。

デジタルだと、「ありがとう」で引いて「感謝する」が出てきたら、また今度はそこから「恩に着る」とかが出てきて「足を向けて寝られない」といった表現までも簡単な操作で手繰っていけるわけです。

そして一太郎上なら、見つかった言葉をすぐにコピーして作成している文章に利用することができる、これは非常に実用的ですよね。文章を書きながらシソーラスを使うなら、大画面のほうが使いやすいですね。

ネットでみんなが作り上げて共有できるシソーラスがあればスゴイ

最近では、どこの道が混んでるとか、電車が止まってるとか、どこそこの地域は雪が降ってるとか、みんながネットに情報を持ち寄って共有してますよね。そんな風にネットで作り上げて共有できるシソーラスがあれば便利なんじゃないかと思うんですよ。

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