![]() 1.背景 当方は、英文和訳(主に特許翻訳)に携わっており、多いときには、1箇月の翻訳量も500枚を超すことがあります。よほどのひどい英文でない限りは、すでに翻訳時間=タイピング時間という図式ができあがっており、作業中は英文原稿に注目し、スクリーンを見ることはあまりありません。この点が、一般的な文書作成等と大きく異なる点であると考えております。したがって、仮名漢字変換の信頼性が絶対的となります(極端に言えば、仮名漢字変換の信頼性が、たとえば20%低下すると、収入が20%低下することになるからです)。 2.仮名漢字変換エンジンの使用歴 文書作成の最初のOA化はROCHOのリポートという初期のワープロ専用機(日立のワードパルのOEMだったと思います)でした。そのころ仮名漢字変換エンジンの搭載があったか否かについては記憶にありませんが、2ストローク・モードという簡易化されたコード入力モードが備わっており、もっぱらそれを使用していました。 その後、Mac SEを購入しましたが、2.1変換の変換効率が非常に悪く、すぐにEGBをインストールしました。しばらくしてSolo WriterにMacVJEがバンドル(不確かです)されて発売され、変換後の文字の逆変換(完全ではありませんが)が魅力的でしたがインラインに対応していなかったため、あまり使用しませんでした。 System7から登場した「ことえり」も、それまでの2.1変換のイメージが悪く、使用したことがありません。 その後しばらくしてATOK8がバンドルされたワードパーフェクトが発売され、すぐに購入して使用しましたが、当方の印象では、当時のEGBの方が優れていた(開発者の日本語能力に左右されないという意味において)ようです。たとえば、後述する「EGBに対する不満」と同様に、開発者の意図するパターンに一致しない単語を新しい単語と見なして別の変換候補を表示するという特徴(当方の推定)があり、「変換を忘れる」と言われていたと記憶しています。ユーザの意識の中では、いずれも同じ単語として認識していることから、注意力を試されているような不愉快(失礼)な印象を受けた覚えがあります。結局、すぐにEGBに戻してしまいました。その後、ATOK11にアップグレードしましたが、いまも開封されずに本棚にあります。 3.EGBについて SEのころからMacの仮名漢字変換といえばEGBが定番でした。その後、改良が重ねられてかなりの満足を得ていましたが、OS Xバージョンになってから、突然、逆戻りしてしまったようです。おそらくは、開発開始時に安定していたバージョンが元になっているためではないかと推測しています。 初期のころから、EGBには「あまり日本語が好きでない開発者」をにおわせるところがありました(MacWorldで自称EGBの開発者という外国人に会ったことがあります;インストール直後の変換では、不吉な文字が最初の変換候補となることは、仲間の間でも有名でした)。 以下は、EGB(6月26日のUD前)を用いて作成したEGBについての文章(文句)です。 概して、名詞、記号、その他の体言と、助詞に相当する文字の組み合わせをパターンとして学習しているように感じられます。より詳細には、それぞれが個々に意味を有する第1の文字列と第2の文字列の組み合わせにおいて、第2の文字列の先頭の1ないしは複数文字が助詞を構成可能であり、かつその文字を除いた第2の文字列が別の意味をもたらし得るとき(意味論においてではなく、メイン辞書に登録された単語を構成し得るということです)ことごとくそれが「第1の文字列+助詞+第2の文字列のフラグメント」という変換になります。言い換えると、第1の文字列もしくは第2の文字列に続くも時列(←これは文節変換時の変換誤りです;この注記は後から挿入しています)のいずれかに変化があった場合には、おなじ変換誤りを繰り返すだけでなく、その誤りを看過すると(すでに区切り学習させたことが意識にあるため看過の防止にはかなりの注意力が要求され、文章作成に使用可能な脳みそのプロセッシング・パワーが浪費されます)、それを既成事実としてすでに区切り学習済みの「はず」である組み合わせさえもが無効化されてしまいます。正しいことは認めようとせず、他人の誤りには敏感な「政治家あるいは官僚的」仮名漢字変換エンジンといったところでしょうか。
あまり他社の製品の欠点について述べても意味がないのでこの程度にしておきます。 4.作業効率の向上について 最初に述べましたように、当方の場合には入力に要する時間をいかに短縮するかということが非常に重要なポイントになります。このため、重いワープロソフトに代えてエディタ(YooEditを使用していましたが、OS Xに換えてからはJedit)を使用し、プロジェクトごとにユーザ辞書も作り替えます。変換の目標とするところは、1対1もしくは多対1の変換です。先に触れた「2ストローク・モード」は、2つのキー・ストロークにより1つの文字を入力する1対1の変換であり、入力誤りはあっても変換誤りは(理論上)あり得ません。これを拡張して、文章の作成開始から、頻出が予想される文字列を逐次単語登録し、数字、記号および略語等に置き換えます。登録単語数が膨大になる(100を超えるような)場合には、忘れることもあるため、ファイルメーカにより作成したリストをデスクトップに表示しておきます。 メイン辞書が編集できない限り、1対1もしくは多対1の変換は事実上不可能ですが、MacOS時代のEGBにはメイン辞書の擬似的な編集機能があり、1対多の変換を実質的に排除することが可能でした。また、頻出文字列を数字、略語等に置き換えていることから、恣意的な全角数字の半角変換、無分別な略語の和英変換等が致命的となります。 5.ATOK15に望むこと EGB(OS_Xバージョン;6月26日のUD前)に比較すると、「変換誤りゼロ」を自負されるだけあってかなり優れているという印象を受けました。しかしながら、完全であるとは言い切れません。完全に近づけようとすれば、非常に重くなり、また開発費も膨大になると考えられます。それを承知しつつ、勝手を述べさせていただきたいと思います。 (1)再変換のサポート 再変換がサポートされていないことは、「変換誤りゼロ」の自信の表れのようにも感じられます。しかしながら、文章作成中の変換誤りを含む人為的な誤りをプルーフ時に発見することも少なからずあり、個人的には「再変換」は非常に重要と考えております。現在はapple+option+spaceによりEGBに切り替えて使用しています。 (2)単語登録の使い勝手 前述したように、単語登録を非常に頻繁に使用していますが、お世辞にも使い勝手がよいとは言えません。単語登録起動時にはクリップボードの内容が単語フィールドに表示されますが、起動に時間を要することから、ウインドウ(アプリケーション)の切り替えによってその時間を短縮しています。そのため、クリップボードから単語フィールドにペーストを行う必要が生じます(当然のことながらキー入力も可能ですが、扱う文章の性質上、用語の統一の観点から好ましくありません)。しかしながら、ウインドウの切り替えを行う場合には、選択されるフィールドがトグルしてしまうという問題があります。たとえば、「読み」を入力した後に文章作成アプリケーションに戻った場合においては、カーソルが読みフィールドに残ります。したがって、次に単語登録ウインドウに切り替えたときには、カーソルが読みフィールドにあることから、「読み」を先に入力し、タブキーを使用して移動し、単語をペーストすることになります。その次の単語登録ではそれが逆になります。つまり、登録ごとに「読み」と「単語」の入力順序を交番させるか、あるいはタブキーを使用して所望のフィールドに移動する必要が生じます。それとは別に、クリップボードへの登録単語のコピーを忘れることもあります(EGBでは単語フィールドの値がデフォルトで選択部分になることから)。その場合には、文章作成アプリケーションに戻らなければなりません。これらはすべて、時間の浪費につながります。そこで、次の機能を希望します。
OS9のEGBに採用されていたような疑似編集機能があると非常に助かります。前述した1対1もしくは多対1の変換の要望は極端な意見ですが、おそらくは通常の場合にも使用する単語の範囲は限られており、メイン辞書の「ダイエット」はそれなりに有効であると考えられます(「使用しない」というラベルを付することと、「優先的に使用する」というラベルを付すること、つまり学習は似ていますがまったく別ものです)。 (4)入力の繰り返し 第2のクリップボードとして使用できます。アプリケーションによっては動作の繰り返しがサポートされているものもありますが(e.g. MSWord)、たとえば、キー入力後にそれをdeleteし、別の位置に同じ入力を行いたい場合などは、アプリケーションによる繰り返しを使用すると、その部分がdeleteされてしまいます。 (5) 単語一覧(辞書ユーティリティ)のスクロール スクロール機能がないことから、現在はテキストに書き出して編集しています。また、削除のときのアラートに「今後このアラートを表示しない」のオプションがあると好ましいようです。 (6) 環境設定 ユーザ辞書の名前が長くなると(パスを含むのですでに充分長い)選択されているユーザ辞書の確認が不可能になります。現在はコピー+ペースト(テキストエディタ)により確認しています。 (7) キャレットの循環 未変換の入力において、キャレットが循環(つまり、末尾から先頭にラップ)するようになっていると助かります。その種の設定があることを当方が知らないだけかもしれません。 (8) 連番機能 アプリケーションに依存しない連番機能(OS9バージョンのEGBにありました)がサポートされていると、特許明細書等の作成時に非常に助かることがあります。現在は、クラシックモードのEGBに切り替えて一括処理を行っています。 (9) EGB風のカスタマイズ EGBから乗り換えるユーザも多いと考えられます。使い勝手の良否は「慣れ」が大きなウェイトを占めることから、選択肢の1つとしてその用意があればユーザは助かるでしょう。独自にカスタマイズしても、それが登録済みとなっていることが多く、コンフリクトが気になります。 (10) 推測機能 入力の一部に対応する過去の確定文字列を選択できる機能が提供されており、それなりに便利な機能であると評価されます。しかしながら、おそらくはキー入力の順序によってそれをキャッシュしていると考えられ(あくまでも想像です)、「確定文字列」をもたらした入力の途中にキャレットを移動して文字の追加を行うと、追加した文字列が「確定文字列」の末尾に追加されてキャッシュされることがあるようです。そのため、非常に奇妙な言葉が候補として並ぶことがあります。変換(入力)誤りを防止するために、あまり使用していません。 以上、勝手なことを述べさせていただきましたが、当方のATOKの使用は始まったばかりであり、その機能のほんの一部を覗いたにすぎません。様々な機能を知るうちに上記の疑問あるいは要望が解決されることもあるでしょう。現在も、明日が期限の150枚の原稿を抱えており、じっくりと腰を据えて機能について学ぶ時間がなかなかとれない状態です。言葉の足りないところ、失礼な表現についてはお許しください。 最後になりましたが、モニタとして選んでいただきありがとうございました。 (C)2001-2002 Justsystem Corporation |