当社が真空管アンプを発売したのは1986年です。真空管ラジオやアンプのキットは昔から色々なメーカーから密かに発売されておりましたが、電子キットメーカーのパイオニアとして、社員の発案と時代の流れを汲んで、ごく自然に真空管関連キットも手がけるようになりました。
”Simple is best ”。回路方式においても意匠においてもそう考えています。
回路方式は最もベーシックな方式にして「基本的な真空管の音の良さ」を味わえるようにしています。しかし半導体の時代になってから開発された(あるいは普及した)技術やデバイスもメリットがあれば積極的に応用するようにしています。 保守的な傾向にある昔からの真空管マニアの方々からは「邪道だ」とお叱りをいただいたこともありますが、今では真空管アンプに普通に使われるようになっているものもあります。
また、意匠では”Simple”のほかに“Compact”を心がけています。真空管回路は発熱が大きいですし、高電圧を使用するので小形化にはかなり制約がありますが、シンプルなデザインに生かすためにも凝縮感のようなものが必要だと考えています。さきほどの新しい技術を取り入れることで小形化に有効です。
まず、外観が半導体機器とはかなり違うので、中高年であれば「懐かしい」、若者にとっては「珍しい」「新しい」「暖かみがある」などと感じることも大きいとは思います。
しかし、何よりも真空管の「音の良さ」です。性能や特性を数値で表す(つまり、測定機に聴かせる)と桁違いに半導体アンプのほうが優秀です。
しかし、人間の耳には偶数次高調波(楽器の音や声にも豊富に含まれる、基本音の偶数倍の周波数の音)が含まれると「豊かな音」「艶やかな音」など、快い音に感じます。真空管は音が歪みやすいのですがその成分が偶数次高調波なので良い音に聞こえます。これはちょうど、純粋な蒸留水よりも適度な不純物(ミネラル)を含んでいる方が美味しく感じるのに似ています。また、その水にも微妙に色々な味があるように、真空管の種類によって音が違うのが更なる魅力と思います。
何でもかんでもブラックボックス化、超小形化、あるいは複雑化された機器があふれる現代、自分では作ることはおろか、しくみや構造を知ることさえできません。そんな楽しみや感動を味わうことができます。とくに真空管は、半導体では考えられないほどシンプルな回路、少ない部品数でちゃんとした音が出せることに感動する方も少なくありません。

できあいのものが溢れているこの世の中で、自分で組み立てたものには何倍もの愛着が湧くはずです。だからといって、部品を調達して一から作るのは初めての方にとってハードルが高すぎますので、まずはキットで体験して楽しんでいただきたいですね。