モリサワ書体担当者 特別インタビュー

あなたの知らないフォントの世界・前編

モリサワフォント26書体 35周年記念版フォント

モリサワフォントは、その視認性の高さと豊富なデザインバリエーションから様々な業界で採用されています。そのモリサワフォント26書体を、一太郎の35周年記念企画として「一太郎2020 プラチナ」に搭載します。​

搭載に際して、モリサワの担当者にお話を聞きました。たかがフォント、されどフォント。フォントの奥深い世界を垣間見ることができました。

ぜひともこの記事を読んで、フォントに興味を持っていただきたいです。

前 編

後 編

株式会社モリサワ
フォントソリューション部

小林 佑 氏 【写真:左】

ソフトウェアへのバンドルや機器への組み込みなどの営業を担当。お客様への適切なフォントの提案や特殊な文字の技術的な仕様の説明なども行う。​

株式会社モリサワ
フォントデザイン部

阪本 圭太郎 氏 【写真:右】

フォントのデザイン企画、社内外のデザイナーとの協働、折衝などを担当。モリサワ「タイプデザインコンペティション」の運営などにも携わる。​

一太郎2020 プラチナに搭載される書体はどのようなものですか?​

小林氏:
今回、一太郎シリーズの中でも最大の26書体を提供させていただきました。一太郎ユーザー様に様々なフォントを使うことへの魅力を感じていただきたいという想いがあり、明朝体、ゴシック体、デザイン書体、筆書体、かな書体など、26フォントを提供させていただきました。

明朝体ですと、商業印刷などプロユースでお使いいただける「リュウミン」とユニバーサルデザイン仕様の明朝体「UD黎ミン」をウェイト (太さ) 違いで各4書体、優雅なデザインに定評のある「A1明朝」、正統派オールドスタイルの「きざはし金陵」を搭載しました。​

ゴシック体では「UD新ゴ」をウェイト違いで4書体。個性的なデザインフォントとしては「解ミン 宙(そら)」と「すずむし」、筆書体として「正楷書CB1」と「隷書E1」を搭載していますので、様々な制作物に合わせてお使いいただけます。また、かな専用フォントとして明朝体の「リュウミン オールドがな」、ゴシック体の「ネオツデイ こがな」をそれぞれウェイト違いで4書体ずつ用意しましたので、「リュウミン」や「UD新ゴ」などと組み合わせて使うことで、普段とは違う演出をお試しいただけます。

UD (ユニバーサルデザイン) フォントとはどのようなものですか?

阪本氏:
どんな方にも読みやすく、読み間違いを起こしにくいフォントとしてゴシック体や明朝体のUDフォントをリリースしています。

用途としては、例えば、飲食物の成分表示や薬の用法・用量など、確実に伝わる必要のある大切な情報の表示に使われることが多いです。昨今では、CSRレポートや有価証券の報告書など、どんな世代の方にも読みやすいフォントということで使われるようになりました。地方自治体の広報誌は、担当者自身で制作しているケースもあり、誌面をリニューアルしてUDフォントに変えたところ「読みやすくなった」と、これまで広報誌に興味を示さなかった方々も手に取ってくれるようになったという反応もいただいています。

今回、一太郎2020 プラチナには、明朝体で「UD黎ミン」を、ゴシック体で「UD新ゴ」をウェイト違いでそれぞれ4書体ずつ搭載させていただいておりますので、格式を求められる場面からカジュアルな内容まで、広い用途にお使いいただけると思っています。

UDフォントとそうでないフォントの違いとはどんな点でしょうか?

小林氏:
例として、「新ゴ」と「UD新ゴ」の比較で説明しましょう。「新ゴ」の場合、文字の懐 (空間) が狭くて、遠くから見ると「S」「3」「6」などフォルムの似た文字の判別がしづらいですが、「UD新ゴ」の場合は、空間をゆったり取っているため、似た文字の形でも判別しやすい形に再設計しています。

阪本氏:
漢字ですと「夏」など、線が込み入った文字では、できるだけ白い空間を取ることで文字のつぶれを防いでいます。線と線で囲まれた空間のことを専門用語では「懐(ふところ)」というのですが、UDフォントは「懐が広い」ということになりますね。書体のデザインを崩さない範囲で、懐を広く取っています。

フォントというのは、“読みやすくて当たり前”に作るものです。そのうえで読みやすさと、文字そのものの形であるデザインのバランスを両立させることがフォント作りでは欠かせません。その中でも、UDフォントは読みやすさに重点を置いて開発しています。あまりにも読みやすさを強調しすぎると違和感が出てしまいます。デザインのルールを逸脱しない範囲でうまく調整しているのがUDフォントです。

デザインに重きを置いて開発しているものもたくさんあり、それらでも読みやすさの検証はしっかり行っています。書体のコンセプトによってデザインは様々で、一概にどれが良い悪い、ということではもちろんありません。

書体選びに悩んだときには、まずUDフォントをお試しいただくのがいいかもしれません。UDフォントは多くの人にとって読みやすくなるよう開発されたフォントですので、読みやすい誌面を作る近道になると思います。小説でも町内会報でも旅行記でも、幅広くお使いいただけます。

一太郎はかなフォントを別に設定することができます。そのメリットを活かすためにはどのような組み合わせで使うのがいいのでしょうか。

阪本氏:
まずは、明朝体+明朝体の組み合わせを試していただきたいです。一番わかりやすいのは「リュウミン」+「リュウミン オールドがな」の組み合わせですね。「オールドがな」は少し小さいのと、文字の形そのものが流れるような、曲線的な部分が強調されたデザインになっています。一般的な日本語の文章は、ひらがなが6~7割を占めると言われます。少し小さく設定されたひらがな専用のフォントを使うことによって、長い文章が読みやすくなります。また、リズムが出て情報を拾いやすくなります。ゴシック体では「UD新ゴ」に組み合わせる「別がな」としては「ネオツデイ こがな」を設定していただくのがいいと思います。

上記以外の組み合わせでなにかおもしろいものはありますか?​

阪本氏:
一太郎をお使いのみなさまは、いろいろな制作物を作られると思うので、どんどん試していただきたいというのが我々の本音です。

私どもも試してみたのですが、「きざはし金陵」+「リュウミン オールドがな」が意外と合います。今回一太郎2020 プラチナに搭載している「きざはし金陵」のウェイトは「M」ですが、「リュウミン オールドがな」は「M」ではなく「R」のほうがしっくりきます。別のフォントを合わせるときには、実際の見た目の太さ (黒み) を合わせて調整するのがおすすめです。ウェイトは、そのファミリーの中でのバリエーションなので、「M」とか「R」とかの記号だけに目を向けるのではなく、目で見て自然な太さのバランスを探ってほしいです。そしてかなを少し小ぶりにする (「フォントの拡大率を下げる」) といいかもしれません。

ほかにイレギュラーな組み合わせとしては、ゴシック体+明朝体ですね。みなさん日常的に目にされている身近なものにその組み合わせがあります。実は漫画のセリフは、漢字がゴシック体でひらがなが明朝体であることが多いんです。広告でもゴシック+明朝という組み合わせは結構多いです。どんな組み合わせでも「ダメ」というものはないので、自分なりの組み合わせを楽しんでいただけたらと思っています。ただし、一つの制作物でまったく違ったデザインのフォントをたくさん使いすぎるとうるさく感じてしまうので、書体は多くても3つから4つぐらいまでにしたほうがまとまりがよくなりますね。​

同じきざはし金陵でも縦組み横組み、字間アキ、色などによって表現力が変わる。​

縦書きの小説などにおすすめのフォントはどれでしょうか?​

阪本氏:
長い文章だと「リュウミン」 (+「リュウミン オールドがな」) がおすすめですね。縦書きの小説や同人誌などとは特に親和性が高く、とても読みやすいと思います。

短いセンテンス (文字列) を目立たせたい場合はどうでしょうか。​

阪本氏:
タイトルや広告のキャッチコピーなどには、「UD新ゴ」が使いやすいと思います。ウェイトも4種類あるので、シチュエーションに合わせて選べます。

「すずむし」や「きざはし金陵」など個性的な書体は、書籍の装丁、帯、美術館のポスターなどでよく使われています。「きざはし金陵」は明朝系の書体ですが、右斜め上に上がっているような特徴的なデザインが目を引きます。古い書物から文字を起こした書体で、昔の活字の良さを残しつつ、現代でも使いやすく作り直しました。

まずは言葉 (テキスト情報) があって、そこにどんな洋服 (書体) を着せたらよりインパクトが出るか、よりアピールできるかを考えて書体選びをし、全体のデザインをしていただけるといいかなと思います。

(聞き手/内藤由美)​

「モリサワフォント26書体 35周年記念版フォント」が収録された「一太郎2020」のお求めは、こちらのコーナーで​

一太郎2020 プラチナ​ [35周年記念版]

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